京都地方裁判所 平成2年(わ)105号 判決 1991年12月16日
国籍
韓国(慶尚南道晋陽郡金谷面省山里九六九番地)
住居
京都市南区吉祥院西ノ庄西中町一番地
土木建設請負業及び人夫供給業
山下明輝こと全明洸
一九四二年一〇月一五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官吉浦正明出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、京都市南区吉祥院西ノ庄西中町一番地に事務所を置き、「明輝建設」の名称で土木建設請負業及び人夫供給業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外するなどの行為により所得を秘匿した上
第一 昭和六〇年分の実際総所得金額が一億一〇五〇万二一四九円(別紙(一)修正総所得金額計算書参照)あったにもかかわらず、同六一年三月一三日、京都市下京区間ノ町五条下る大津町八番地所在の所轄下京税務署において、同税務署長に対し、右年分の所得金額が一六一六万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が四〇五万二〇〇円(ただし、申告書では、計算誤りにより四〇二万五〇〇〇円と記載。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納税期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額六三一五万八四〇〇円と右申告税額との差額五九一〇万八二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた
第二 昭和六一年分の総合課税の実際総所得金額が一億二一一九万七二七二円、分離課税の実際短期譲渡所得金額が二六〇〇万五八九八円(別紙(二)修正合計所得金額計算書参照)あったにもかかわらず、同六二年三月九日、前記下京税務署において、同税務署長に対し、右年分の総合課税の所得金額が一七三四万六〇〇〇円で、分離課税の短期譲渡所得金額はなく、これに対する所得税額が四五六万三六〇〇円(ただし、申告書では、計算誤りにより四五五万六〇〇〇円と記載。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納税期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額九〇五二万二五〇〇円と右申告税額との差額八五九五万八九〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れた
第三 昭和六二年分の総合課税の実際総所得金額が三億九三五万九四〇六円、分離課税の実際短期譲渡所得金額が八〇二九万五九六一円(別紙(三)合計所得金額計算書参照)あったにもかかわらず、同六三年三月七日、前記下京税務署において、同税務署長に対し、右年分の総合課税の所得金額が二〇一二万五〇〇〇円で、分離課税の短期譲渡所得金額はなく、これに対する所得税額が五八一万五〇〇円(ただし、申告書では、計算誤りにより五八〇万七五〇〇円と記載。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納税期限を徒過させ、もって不正の行為により、正規の所得税額二億二九六四万九三〇〇円と右申告税額との差額二億二三八三万八八〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書二通
一 収税官吏の被告人に対する質問てん末書三三通
一 証人内野恭介及び同宮村幸雄の当公判廷における各供述
一 宮村幸雄(二通)及び呉夏子の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏の呉夏子(二通)、池戸一己、金岡正男、水谷章、山田一孝、井上政美、金正和、呉治重、金富美、平義一、長尾保、田中正美、浅岡永三郎、山崎テル、土屋善助、木崎佐一、中村政章、孫伸奎、大嶋吉一、宮村幸雄、鄭洋子(写し)及び全三摂に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の査察官調査書七八通
一 押収してある賃金台帳一綴(平成三年押第五〇号の一)、「草津」と標記の元帳一綴(同号の2)、集金帳一冊(同号の3)、大阪・草津・芦屋集金帳一冊(同号の4)、外注材料・諸経費簿一綴(同号の5)、売上帳等三綴(誠和建設のもの、同号の6)、請求・入金及び経費帳一綴(同号の7)、元帳一綴(同号の8)、ノート一綴(覚書と表記、、同号の9)、支払帳一綴(同号の10)、誠和建設元帳一綴(同号の11)、経費明細帳一綴(同号の12)、総勘定元帳一綴(同号の13)、売上帳一綴(誠和建設のもの、同号の14)
判示第一の事実について
一 下京税務署長作成の所得税確定申告書(検第五号)及び所得税修正申告書(検第八号)各謄本
一 被告人作成の六〇年分の所得税の修正申告書(写し)
判示第二の事実について
一 下京税務署長作成の所得税確定申告書(検第六号)及び所得税修正申告書(検第九号)各謄本
一 被告人作成の六一年分の所得税の修正申告書(写し)
判示第三の事実について
一 下京税務署長作成の所得税確定申告書(検第七号)及び所得税修正申告書(検第一〇号)各謄本
一 被告人作成の六二年分の所得税の修正申告書(写し)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪とも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、なお、情状により罰金刑について同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条のより犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の事情)
本件は、土木建設請負業等を営む被告人が、三年間にわたり、合計三億六八〇〇万円余りの所得税をほ脱したという事実であるが、各犯行の動機に酌むべきものがないこと、そのほ脱額が右のとおり多額である上、ほ脱率も平均約九五・四パーセントと極めて高率に達すること、犯行も態様も、自己の事業所得のうちの一部のみを申告し、他は一切申告しないという大胆なものであること、更には、各犯行が常習的でもあることなどの事情に照らすと、その犯情は悪質で、被告人の刑責は軽視できないものがあるから、この際被告人に対し、懲役刑についても実刑をもって臨むことも考えられないではない。
しかし多面、被告人は、経費等についてはすべて帳簿等に記載しており、別に裏帳簿を作成するなどの手段を講じて脱税を画策したような事情ではなく、単につまみ申告をしたにすぎないもので、犯行態様は単純といえること、現在では、事実をすべて認めて自己の犯行を反省し、今後再過なきを誓うとともに、税理士の指導のもと昭和六三年分からは誠実に納税していること、既に本件については修正申告を行い、重加算税等を含めて全額納付済みであること、被告人がいないとその事業が成り立たないこと、これまで前科はあるものの、かなり古いものであり、本件と同種の前科はないことなどの被告人に有利な事情もあるので、これらをも考慮して主文のとおり刑を量定し、なお、懲役刑については今回その執行を猶予することにした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 松尾昭一 裁判官 釜元修)
別紙(一) 修正総所得金額計算書
<省略>
別紙(二) 修正総所得金額計算書
<省略>
別紙(三) 修正総所得金額計算書
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別紙(四)
税額計算書
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正当計算税額の内訳(所得税用)
<省略>
<省略>
犯則税額の内訳(所得税用)
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<省略>
別紙(五)
税額計算書
<省略>
正当計算税額の内訳(所得税用)
<省略>
<省略>
犯則税額の内訳(所得税用)
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<省略>
別紙(六)
税額計算書
<省略>
正当計算税額の内訳(所得税用)
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犯則税額の内訳(所得税用)
<省略>
<省略>